待機児童問題とは、入園の必要性がある児童が保育施設へ入園できない問題を指します。ベビーブームの落ち着きや少子化の加速から、90年代よりも待機児童問題は落ち着きを見せつつありますが、それでも一定の待機児童が存在していることも事実です。
本記事では、待機児童問題の現状・原因について切り込んで解説していきます。
待機児童問題の現状
全国の待機児童数について、令和3年に厚生労働省が発表した数は5,634人です。これは、平成29年の待機児童数2万6,081人と比較して、約4分の1以下に減少しています。
しかし、地域や年齢によっては特定の保育施設に入れないケースが依然として存在していることも否定できません。また、このデータには「隠れ待機児童」と呼ばれる、表には出てこないが保育所に入れない子どもたちが含まれていません。
そのため、数値をそのまま鵜呑みにして、待機児童問題が完全に解消されたと判断するのは難しい状況です。隠れ待機児童を考慮すると、さらに多くの未就学児が保育所の入所を待っていると推測されます。
地域別の現状
地域別に見ると、待機児童数は地方によって差があり、令和2年時点では全国1,741の地方自治体のうち約8割の市区町村で待機児童数は0人となっています。
しかし、都市部には依然として多くの待機児童が集中しており、全国の約6割である7,896人が都市部に存在しています。待機児童数が最も多い自治体は埼玉県さいたま市で、令和2年4月時点で387人の待機児童がいました。
次いで、兵庫県明石市では365人が待機児童として登録されています。人口増加率の高い自治体では、待機児童が多くなる傾向があり、特にそうした地域では重点的な対策が求められています。
子どもの年齢によって待機児童数に大きな差がある
また、待機児童数は子どもの年齢によっても大きな差が見られます。令和2年の時点で1万2,439人の待機児童がいましたが、そのうち7割以上にあたる9,603人が1歳から2歳の児童です。
この年齢層の保育利用率は50.4%と高く、特に低年齢児向けの地域事業型保育事業が拡充されてはいるものの、他の年齢層と比較して受け入れの定員が少ないです。そのため、さらなる受け皿の拡大が求められています。
待機児童問題の原因
次に、待機児童問題がなかなか解消されないことの原因についてみていきましょう。
保育士不足
保育士の数は年々増加しているものの、離職率も高く、多くの保育施設では慢性的に保育士が足りていない状況が続いています。平成26年に厚生労働省が発表したデータによれば、平成29年度末時点で全国で約7万4,000人の保育士が不足しているとされています。
このため、保育士の数が需要に追いついておらず、保育施設が受け入れできないケースもあります。待機児童問題を解消するためには、保育士の確保が非常に重要な課題です。
共働き世帯の増加
次に、共働き世帯の増加についても待機児童問題に影響を与えています。平成30年度の男女共同参画白書によると、平成29年時点で共働き世帯は1,188万世帯に達しています。平成19年時点で約55%だった有配偶女性の就業率も、平成26年には63%まで上昇しました。
働く女性が増えたことや、共働き世帯の増加が保育施設の需要を押し上げ、結果として待機児童が増える一因となっています。
都市部に待機児童が集中している
待機児童数は、地域によって大きく異なります。待機児童数0の自治体もある一方で、多くの児童が入所を待っている自治体も存在します。特に都市部に待機児童が集中しているのが現状です。
これは、都市部では生活や仕事の環境が整っており、人口が集中するためだと言われています。都市部では保育施設の供給が需要に追いつかず、保育所への入所を待つ子どもが増える傾向にあります。
保育施設が待機児童問題解消のためにできること
最後に、保育施設の視点に立って、保育士一人ひとりが待機児童問題に対して取り組める解決策を解説します。
職場環境を改善する
厚生労働省が令和3年5月に発表した「保育を取り巻く状況について」では、退職理由の上位に職場の人間関係や給料の低さ、仕事量の多さ、労働時間の長さが挙げられています。これらは主に職場環境に関連した要因で、特に1位から4位までが職場環境の悪さに起因していることが分かります。
このようなデータから、保育士一人ひとりが待機児童問題を解決するためにできることは、「保育士が長く働ける環境を整える」ことだと言えるでしょう。保育士不足が待機児童問題の一因であるため、保育士が辞めずに長く続けられる環境をつくることは、待機児童の減少につながります。
ICTシステムを導入する
保育施設が働きやすい環境をつくるための一つの方法として、ICTシステムの導入が有効です。ICTを活用することで従来の業務フローを見直し、新人・ベテラン問わずICTシステムを導入して日々の業務を簡略化することができます。ICTシステムを活用すれば、紙ベースで行われていた手書きの記録や書類作成がデジタル化され、業務効率が大幅に改善されるでしょう。
例えば、子どもの出席状況や健康管理、保護者への連絡業務などがデジタル化されれば、保育士の業務量が軽減されます。また、手書きや手入力にかかる時間が削減されることで、保育士が子どもと接する時間をより多く取れるようになるでしょう。これにより、質の高い保育が提供できるようになるだけでなく、労働時間の短縮にもつながります。
さらに、ICTシステムは保育士間での情報共有や連携もスムーズにし、コミュニケーションが向上することで、職場の人間関係の改善にも寄与する可能性があります。結果として、保育士の離職率の低下が期待できます。
まとめ
待機児童問題は解消傾向にあるものの、特に都市部では依然として多くの子どもたちが保育所への入所を待っています。この背景には、保育士不足や共働き世帯の増加があり、さらに隠れ待機児童の存在も問題を複雑にしています。
解決には、保育士の職場環境改善が不可欠であり、ICTシステムの導入による業務効率化が有効です。これにより、保育士が長く働き続けられる環境を整えることができます。