現在、保育士や幼稚園スタッフの労働環境の改善が急務となっており、労務管理の重要性が再度問われています。しかし、保育園や幼稚園における労務管理とは、いったい何なのでしょうか。本記事では、保育園・幼稚園における労務管理の仕事内容や、業務を効率化するための方法をまとめて紹介します。
保育園・幼稚園における労務管理の概要
保育園や幼稚園といった保育現場における「労務管理」は、職員の労働条件や勤怠、賃金、健康管理などを適切に把握・管理する重要な業務です。これは一般企業と同様に、雇用から退職までのあらゆる過程に関わり、労働時間の管理や有給休暇の取得状況の把握、各種保険の手続きなどが含まれます。
こうした管理が不十分であると、賃金の未払い・労働時間の超過・健康管理の不備など、職員のワーク・ライフ・バランスに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
保育現場では、労務管理を担う担当者の立場は園によって異なり、園長や主任保育士、事務職員などが兼務するケースも多いです。とくに小規模な園では、園長が保育業務と施設運営、さらには労務管理まで一手に担っていることも珍しくありません。
このため、事務作業の負担が大きく、残業や休暇取得の難しさから離職の一因となっている実態もあります。その中でも、労務管理の基本として押さえておくべきなのが「法定3帳簿」の整備です。
これは労働基準法に基づき「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿等」の3点を指し、それぞれ記載すべき項目と保存期間が定められています。これらの書類を適切に整備・保存することが、法令順守だけでなく、労働環境改善や職員の安心にも直結するのです。
近年では、こうした業務の効率化を目的に、ICTシステムの導入が進んでいます。保育士の事務作業を軽減してより良い職場環境を実現するためにも、労務管理の重要性を理解し、適切な体制を整えることが求められています。
労務管理において行う主な仕事
保育園や幼稚園などの保育現場における労務管理には、採用から退職に至るまで多岐にわたる業務があります。
労働契約の締結
まず、職員を雇用する際には、労働契約の締結が必要となります。契約期間や更新の有無、勤務地や業務内容、労働時間、賃金の支払方法、退職に関する事項などを明確にすることが求められます。
とくにパートタイム労働者には、賞与や退職手当の有無なども書面で提示しなければいけません。これらは厚生労働省の定めるルールに則り、必ず書面で交わすことが推奨されています。
各種保険手続き
加えて、雇用に伴う各種保険手続きも重要な業務の一つです。労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金など、職員が安心して働ける環境を整えるために不可欠な制度の手続きが求められます。
勤怠管理
また、職員の勤怠や労働時間、休憩・休日の管理も、労務管理の中心的な業務です。労働基準法では、1日8時間・週40時間を上限とする法定労働時間が定められており、これを超える場合には時間外労働として割増賃金の支給が必要となります。
休憩時間は労働時間に応じて最低45分〜1時間の付与が義務付けられ、休日は週1回または4週4日の最低基準を満たさなければいけません。さらに、働き方改革の影響で年5日の有給休暇取得が義務化されたことから、職員が安心して休暇を取れるような管理体制の整備が不可欠となっています。
退職・契約終了手続き
最後に、退職や契約終了時の手続きも重要です。契約終了には退職や期間満了などがあり、雇用主からの一方的な解雇は原則として認められません。これらの手続きには正確な知識とていねいな対応が求められ、職員の信頼確保にも直結します。
労務管理の効率化には「ICTシステム」がおすすめ
保育園や幼稚園における労務管理は、職員の雇用から退職まで、労働条件に関わる多様な情報を正確に把握・管理する必要があります。具体的には、始業・終業時刻の記録、労働時間の集計、休憩や休日の状況、健康状態の把握などが含まれ、職員の働き方を支える基盤となる重要な業務です。
こうした労務管理を適切に行うことは、働きやすい職場環境の整備や職員の健康維持にもつながり、ひいては保育の質の向上にも貢献します。しかしながら、これらの業務は手作業で行うと煩雑で時間がかかり、記録ミスや管理の不備といったリスクも生じがちです。
とくに保育の現場では、日々の保育業務と並行してこうした事務作業をこなす必要があるため、職員の負担が増加しやすいという課題があります。そこで注目されているのが、ICTシステムの活用です。
近年では、保育園向けに開発された業務支援システムに労務管理機能を搭載したものが登場しています。こうしたシステムの導入によって、業務効率化が進められているのです。たとえば、ICカードやタッチパネルを使った出退勤の打刻機能を利用すれば、正確な勤怠記録を簡単に取得することができます。
また、その打刻データをもとに労働時間や休暇取得状況を自動的に集計・表示することで、人的ミスを減らし、リアルタイムでの把握も可能になります。
さらに、ICTシステムの中には、各種保険の手続きや契約関連の業務をオンラインで完結できるものも少なくありません。これにより事務作業の省力化が図れるだけでなく、法令に準拠した正確な管理が実現します。
このようにICTの導入によって、労務管理の精度と効率が大きく向上し、保育士が本来の業務である保育に集中できる環境が整えられていくのです。今後はこうしたシステムを積極的に活用し、保育現場の働きやすさをさらに高めていくことが期待されます。
まとめ
保育園・幼稚園における労務管理は、職員の雇用から退職までのあらゆる労働条件を適正に把握・管理し、働きやすい職場環境を整えるために欠かせない重要な業務です。しかし、保育現場では多忙な日々の中でこれらを手作業で行うことが困難な場合も多く、業務負担やミスのリスクが課題となっています。そこで注目されているのがICTシステムの導入です。勤怠記録や労働時間、休暇状況などを正確かつ効率的に管理できる機能が備わっており、保険手続きや契約業務までオンラインで対応可能なものもあります。これにより、保育士の事務作業が軽減され、保育に専念できる環境が実現します。労務管理の質を高め、保育の質も向上させるために、ICTの積極的な活用が今後ますます重要になるでしょう。