近年、保育園・幼稚園においてICTシステムの導入が進む中、課題も浮かび上がっています。本記事では、その進展に対する課題やその背後に潜む理由・要因に焦点を当て、保育環境の向上に向けた取り組みを紐解いていきます。ICT化がもたらす可能性と同時に、未解決の問題点にも焦点を当て、保育の未来に向けた洞察に迫ります。
CONTENTS
保育園・幼稚園のICT化が推進されている理由
近年、保育園や幼稚園においてICT(Information and Communication Technology)の導入が急速に進んでいます。従来のアナログな手法に代わり、デジタル技術の活用が求められているのはなぜでしょうか。こちらで詳しく解説します。
業務効率化と働き方改革
ICT化が進む最大の理由は、業務の効率化と働き方改革への期待です。保育士が子どもたちと向き合う時間を増やすためには、事務作業や記録などのルーティンワークを効率的に処理する必要があります。
ICTシステムの導入により、登降園管理や欠席連絡などの業務が自動化され、保育士は本来の保育業務に集中できるようになるのです。これにより、労働時間の短縮や残業の削減が期待されます。
ミスの軽減と品質向上
ICTシステムは精密かつ一貫性のあるデータ管理を可能にし、人為的なミスを軽減します。
保育園の業務においては、正確な情報が重要であり、デジタル化により品質向上が期待できるのです。保護者や関係者との円滑なコミュニケーションも実現し、信頼性の高い保育環境を提供する基盤となります。
コミュニケーションの活性化
ICT化はコミュニケーションの活性化にもつながります。保育園や保護者、職員同士の情報共有や連絡手段が向上し、時にはオンラインプラットフォームを通じてコミュニケーションが円滑に行われるのです。これにより、保護者との連携や職員同士の協力が促進され、子どもたちの保育環境がより充実したものとなります。
保育園・幼稚園のICT化が進んでいない理由
現代社会では情報通信技術(ICT)があらゆる分野に進化をもたらし、教育分野もその例外ではありません。しかし、なぜなかなか保育園や幼稚園でのICT化が進展していないのでしょうか?その背後には様々な理由が潜んでいます。
機器と環境の未整備
ICTの導入には適切な機器と環境が必須ですが、保育園や幼稚園ではこれが整っていないことが少なくありません。インターネット環境や端末が限定的であり、利用場所も制約されているため、ICTを活用する基盤が不足しています。
園長・管理者のITに対する意識の低さ
ICTの導入は組織のトップからのリーダーシップが欠かせませんが、園長や管理者がITに対して充分な理解や興味をもっていないことが一因です。ITへの未熱心な姿勢が、新しい変革を抵抗させ、導入の機運を低下させています。
職員のITリテラシーの低さ
ICTを有効に導入するためには、職員のITリテラシーが求められますが、保育園や幼稚園の職員の中には、パソコンやデジタル機器に不慣れな人が多いのが現状です。これが、新しいシステムやツールの導入を難しくしています。
予算の制約と経済的課題
ICTの導入には一定の費用がかかりますが、多くの保育園や幼稚園は予算の制約や経済的な課題に直面しています。先進的なテクノロジーを導入する余裕がないというのがひとつの理由です。
保育の特殊性への誤解と懸念
保育は子どもたちとの信頼関係や手作業によるアプローチが重要なため、デジタル化に対する誤解や懸念が存在します。保育において手書きのアプローチが大切だとの意識が、ICTの進展を遅らせているといえるでしょう。
保育園・幼稚園でICTシステムを導入するメリット
保育園・幼稚園においてもICTシステムの導入が進む中、そのメリットは多岐にわたります。子どもたちの安全確保や保護者との円滑なコミュニケーション強化など、さまざまな側面でポジティブな影響が期待できるでしょう。
子どもたちの安全確保
ICTシステムは登降園管理や通園バスの運行状況のリアルタイムモニタリングに活用され、子どもたちの安全確保に一役買います。保護者は子どもの登園や帰宅情報を正確かつ効率的に把握でき、緊急時にもスムーズな対応が可能です。
教育プログラムの充実
ICTシステムは最新の教育資料やプログラムを容易に取り入れる手段を提供します。インターネットを活用して多様な情報や学習コンテンツを導入でき、保育者は子どもたちに対してより質の高い教育を提供できるようになるのです。
情報の透明性と信頼構築
ICTを通じて情報が透明になり、保護者は園の取り組みや子どもたちの様子をリアルに把握できます。透明性の向上は信頼構築につながり、保護者と園とのパートナーシップを一層強化できるでしょう。
保育園・幼稚園でICTシステムを導入するデメリット
次に、導入時のデメリットもチェックしていきましょう。
システム導入に経費がかかる
ICTシステムを導入するには、周辺環境を整える必要があります。たとえば、タブレットやノートパソコン、インターネット環境などです。手間はかかりますが、一方でシステム導入にかかった費用は、最大100万円まで補助金制度を受けることができます。
ネット環境を整える必要がある
Wi-Fiの導入はもちろんのこと、ノートパソコンやタブレットなども複数台用意する必要があります。操作が苦手な方は、シンプルな機能のICTシステムを利用するのもおすすめです。
すでに使用している施設でも、速度が遅いと入力や閲覧に支障が出るため、きちんと環境を整えてから導入しましょう。
慣れるまでに時間がかかる
ひと口にICTシステムといってもさまざまな種類があるため、普段パソコンやタブレットを使わない職員は慣れるまでに時間がかかってしまいます。もちろん、初心者でも使いやすいように工夫されていますが、どうしても個人差があります。
とくに機能性が高いシステムは、研修会や勉強会を開くなど学ぶ場も必要でしょう。保育園・幼稚園の事情に合わせて選ぶことで、短期間で使いこなせるようになります。不安な方は、シンプルな機能のシステムを導入するのもおすすめです。
保育園・幼稚園でICTシステムを導入すると効率が良くなる業務
次に、ICTシステムがどのような業務を効率的にしてくれるのか、園児側と職員側それぞれのケースをチェックしていきましょう。
園児の管理
ICTシステムを導入することで、園児・職員の業務が効率化します。園児の場合、登降園管理・情報管理がスムーズになるため、登降園の時間も慌てずに済むでしょう。
ここでは、主な管理について紹介します。
登降園管理
登降園の時間は、園児や保護者を受け入れる準備や安全に送り出すための準備で気を張っている保育士さんも少なくありません。なかには、紙やタイムカードを使って園児の登降園を管理しているところもあるのではないでしょうか。
しかし、手書きによる管理は、正確な時間を把握できないケースが多いため、記入漏れがあるなど作業に手間がかかってしまいます。
ICTシステムを導入すればリアルタイムの時間を記録できるので、正確かつ一目で確認できます。ICカードをかざすだけで早退・遅刻の管理もできるため、慌ただしい時間もスムーズに対応できるようになるでしょう。
また、登降園打刻が管理しやすくなることで、園児や保護者としっかり向き合ってコミュニケーションが取りやすくなるのもうれしい点です。
情報管理
園児の情報を管理できるのも、ICTシステムの大きなポイントです。PCや手書きで、情報管理をしている保育園・幼稚園も多いのではないでしょうか。ICTシステムなら項目にわけて簡単に管理できるので、たくさんの書類を抱える必要がありません。
たとえば、住所やクラス履歴などの基本情報をはじめ、保護者連絡先、活動記録、園児/児童票などです。園児のアレルギー・健康状態の情報も、ICTシステムなら一括管理できるので、書類の中から必要な情報を探す必要がなくなります。
また、一度登録した情報は、職員間で共有も可能です。引き継ぎも簡単に行えるので、クラス替えがあった場合でも効率的に作業を進められるでしょう。
職員の管理
職員の場合、ICTシステムを導入すると労務管理やシフト作成、料金集計などが容易になります。業務を大幅に効率化できるため、一日の仕事がスムーズに終了します。
ここでは、主な管理について紹介しましょう。
労務管理
ICTシステムで可能になる就労管理は、出退勤・勤怠時間・勤務データなどが挙げられます。雇用形態で勤務時間が異なる場合でも、一覧で確認できるので、すぐに状況を把握でき、万が一時間外労働があっても申請・管理が可能なのでトラブルになりません。
また、労務監査に向けて必要なデータも、ICTシステムなら簡単にまとめることができます。
シフト作成
シフト制にしている保育園・幼稚園の場合、職員のシフト管理も必要になるため、手間がかかります。しかし、ICT化されると、雇用形態に合わせて調整できたり、変形労働時間制にも対応できたりするので、シフト作成でストレスになりません。
一度作成したシフトは、編集・修正も可能です。ほかにも、配置基準に伴う保育士の人数調整や年次有給の作成・管理も容易になります。
シフト作成は、国が定めた配置基準をもとに園児に合わせて保育士を調整するため、規模が大きい保育園や幼稚園は作成・管理が大変です。ICTシステムなら一覧表で確認できるので、時間をかけずにシフト作成が可能になるでしょう。
料金集計
保育料は、すべての園が必要になるわけではありません。なかには、保育料の無償化で不要な園も存在します。もちろん、保育料以外にも、園によってはおむつやミルクにかかる費用や行事代金など、さまざまな料金が必要す。
ICTシステムなら自動計算ができるので、集計に時間を費やしたり、計算ミスをしたりする心配がありません。請求書や領収書を作成し、データ化することですぐ確認できるのもうれしいでしょう。
お知らせ・お便り配信
ICTシステムは、園児と職員を管理するだけではありません。園での行事を保護者にお知らせすることも、保育士の大切な業務のひとつです。
一般的に、保護者へのお知らせやお便りは、電話・手紙がほとんどです。最近はメールで一括送信するところも増えていますが、それでも一つひとつ文章を作成するのは手間がかかります。とくに緊急の対応が必要な場合は、スムーズな伝達がむずかしくなります。
ICTシステムなら一斉メールやお便り配信などの機能が付いているので、早急な対応でも安心してお知らせできますし、忙しくてなかなか連絡が取れない保護者でも、メールや配信なら伝え漏れも防げるので安心です。
連絡帳・排便・午睡記録
保育士さんは、園児の排便回数や睡眠なども管理することになります。それぞれの管理は園児ごとに行えるので、抜け漏れの心配がなく、また記入した内容・時間は連絡帳に自動転記されるため、転記の負担も軽減します。
排便したときにその場でサッと入力できるのもうれしいポイントです。
午睡記録は、システムによって記録できる時間単位が異なります。短い分数で記録できると、より細かくチェックできるでしょう。一括コピーできるシステムなら、その都度記録を入力する必要がないので、大幅に業務を削減できます。
保護者アプリと連携すると、連絡帳のやりとりやお迎え変更連絡も一括管理できるようになります。連絡帳は、園児1人ずつもしくはクラスごとに入力できるので、排便回数や午睡記録なども自動で反映されるでしょう。
ほかにも、検温や食事をチェックする機能もあります。園児の健康状態をタブレットやスマートフォンで簡単に記録できるのは、保育士にとって大きなメリットです。
まとめ
現在、保育園・幼稚園におけるICT化は進展していますが、その進展にはさまざまな課題が潜んでいます。ICT導入の理由は、子どもの安全管理や保護者との効果的なコミュニケーション向上などです。一方で、進展が遅れる理由は、予算不足や導入の複雑さなどが影響を与えています。ICTシステムの導入メリットとしては、安全確保や保護者との円滑な連携、業務の効率向上、教育プログラムの充実、情報透明性向上、信頼構築等です。これらメリットは保育環境の向上と子どもたちの成長を促進する要素であり、ICT導入を促進すべき重要なステップといえます。