保育現場では、子どもたちの安全を守ることが最優先です。しかし、遊びや日常生活の中で思いがけない事故が発生することも少なくありません。現場の忙しさや人員不足、危機管理意識のばらつきが課題となる中、事故を未然に防ぐための対策が求められています。本記事では、保育現場の現状や課題を整理し、事故防止に役立つ解決策を提供します。
保育士が注意すべき事故の代表例
近年、保育施設での子どもの事故が増加しており、2023年8月に子ども家庭庁が発表したデータによると、事故件数は過去最多の2,461件にのぼりました。そのうち、最も多い負傷は骨折で、1,897件が報告されています。以下に保育士が注意すべき代表的な事故例を挙げます。
送迎バスでの事故
送迎バスでは「乗せ忘れ」や「降ろし忘れ」といったミスが頻発しており、過去には置き去りによって園児が死亡する事故も起きました。また、バスの利用をしないと保護者から連絡があったにもかかわらず、誤って乗せてしまう事例も報告されています。これらは職員間の情報共有不足や確認ミスがおもな原因です。
園外活動中の事故
園外活動中は、一瞬目を離した隙に子どもが迷子になったり、確認不足で公園に取り残されたりする事例があります。こうした事故は、交通事故や誘拐などの事件に巻き込まれる可能性もあり危険です。園外活動では、事前の下見と十分な人数配置、職員間の連携が欠かせません。
園内での事故
園内では、送迎時や行事開催時の門の開放中に子どもが外に出てしまう事故が発生しています。また、子どもがトイレに閉じ込められるケースも報告されています。これらの事例では、門や鍵付き設備の安全性を確保することが課題です。
とくに人の出入りが多い時間帯には、注意喚起と人員配置の強化が必要です。また、園庭では、子どもの人数確認不足が原因で遊具の後ろに隠れた子どもに気づけず、園内に取り残された事例があります。園庭が広い場合、死角が多くなるため、点呼の徹底と園庭構造の十分な理解が求められます。
現場が抱える課題
保育現場は現在、深刻な課題に直面しています。現場が抱える課題が原因で職員は余裕が持てず、子どもたちを危険から守り、安全に配慮した行動ができなくなってしまうでしょう。ここでは、現場の課題を整理してみましょう。
離職率の高さと慢性的な人手不足
保育現場の離職率の高さと慢性的な人手不足は、保育士ひとりひとりの負担増大に影響を及ぼしています。保育士の仕事は、子どもの保育にとどまらず、保護者対応や文書作成、イベント準備など多岐にわたります。
そのうえ、システム化が進んでいない現場では、手作業が多く、残業や自宅での仕事が日常化しています。この過酷な労働環境は、プライベートとの両立がしづらく、結婚や出産を契機に退職する人が多いのが現実です。
また、このような状況は、保育士免許を持ちながらも現場を離れている潜在保育士たちの復帰を阻む要因にもなっています。
給与の低さ
厚生労働省の調査によると、保育士の全国平均給与は約24万円で、年収は約363万円となっています。しかし、子どもの命を預かるという重責を考慮すると、この給与水準は業務内容に見合っていないと感じる保育士が多いのが現状です。
時間外労働も多く、給与の低さが離職の一因となっているため、政府は「保育士処遇改善加算」制度を新設し、処遇改善手当を支給する体制を整備していますが、それでもなお十分な改善には至っていません。
職場の人間関係
保育園という閉鎖的な環境では、園の経営方針や教育方針の違い、保護者からのクレーム対応などが負担となり、精神的にも肉体的にも疲弊する保育士も少なくありません。
こうした問題は、業務をスムーズに行うのを妨げるだけではなく、保育士の仕事における大きなストレス要因となり、退職を招く一因となっています。
事故を防ぎ子どもを守る!できる解決策・対策は?
保育現場では子どもの安全を守るための取り組みが求められています。しかし、保育士の労働環境や人手不足、業務負担の大きさが影響し、時には事故が発生してしまうこともあります。これを防ぐためには、以下の対策が有効といえます。
待遇改善
保育士が疲労やストレスから集中力を欠くことなく、安全な保育環境を実現するには、適切な労働環境が必要不可欠です。保育士の待遇に関する問題は、厚生労働省も重く受け止める事態に発展しています。時間外労働を減らす取り組みや給与の改善をとおして、なるべく離職を防ぐことが大切です。
潜在保育士を活用
じつは現場で働いている保育士は約59万人に対して、保育士資格を持ちながら現場を離れている潜在保育士は約95万人にのぼります。潜在保育士の中でも、時短勤務を希望する人が多く、柔軟な勤務体制を整えることが事故防止に直結するでしょう。
時間的な余裕を持つことで保育士がひとりひとりの子どもに向き合い、細やかな観察や対応が可能になります。また、復帰支援や研修制度を充実させることで、潜在保育士の不安を軽減し、現場へのスムーズな復帰をうながせます。
ICTの活用
間接的とはいえ、ICT化の推進も事故防止に大きく貢献しています。保育現場では、子どもの出欠管理や保護者との連絡、保育記録の作成など、多岐にわたる業務が発生します。これらの業務をICTで効率化することで、保育士の負担を軽減し、ミスや漏れを防ぐことができます。
システム化された記録により、事故のリスクを最小限に抑えることが可能となり、保育士が子どもと向き合う時間が増えるため、より安全で充実した保育が実現します。
まとめ
今回ご紹介した事故は、どれも子どもの命に関わる危険を伴いますが、対策を徹底することで未然に防ぐことが可能です。内閣府の「ヒヤリハット事例集」では、報告された事例をもとに点呼のルールや職員の配置計画の見直しといった改善策が示されています。しかし、実際には人手不足、給与水準の低さなどが原因で質の高い保育サービスを保証できない現場も多く、事故を完全に防ぐのが難しいのが現状です。課題を解決するには、ICT化の推進をはじめ、現場にあった対策・解決策を施すことで、保育士が安心して働ける環境が整い、子どもたちもより安全に過ごせるでしょう。